レゴ®︎はお好きですか?
私にとって文章を書くことは、こどものころに夢中になってやっていた砂遊びや、レゴブロックで遊ぶのに近いかもしれない。作る時は夢中で組み立てるのだが、ひとたび完成しても、「もっといいものができる!」と思ったら容赦なく壊して一から作り直してしまう。どうしたら自分がイメージしているものに近づけられるのか、片っ端から手を動かして形にしていく。
さて、レゴの魅力は、壊して作り直せるところにあると思うのだけれど、私が子供の頃のレゴと違って、今は、アナ雪のエルサ城がつくれたり、蒸気船がつくれたりと、かつてと比べると、ものすごく豪華で、迫力のある作品や、より精細な表現ができるシリーズもたくさん出ている。
ただ、娘が欲しがったエルサ城を一緒につくってわかったことは、そういった豪華なレゴシリーズは、自由度がちょっと…いや、かなり低い。
分厚い取説をみながらひとつひとつ組み立てていくのだが、ひとたび完成してしまうと、とてもじゃないが、もういちど壊してイチから作り直す気にはなれない。しかも、お城以外のものをつくってみたくても、パーツの形状が独特すぎて、ほかのものを作るのは、なかなか難しかったりする。形が出来上がりすぎていることで、かえって想像力を発揮しづらくなっているのだ。
というわけで、エルサ城は1度だけリビルドされたきり、娘の部屋の隅に飾られたままである。いっそメルカリで売ってしまいたいくらいなのだが、パーツが本当にちゃんと揃っているかを確認するのも面倒で、そのままになっている。
どちらかというと、このシリーズはレゴというより「プラモデル」に近い気がする。プラモデルは組み立てたあとに塗装したり、装飾する人はいても、わざわざ解体して組み立て直すという人は少ないんじゃないだろうか。
いいものを生み出すヒントは昔ながらのレゴ®︎にあり。
さて、私たちは日々、誰でもつかえる「共通の言語=レゴ」をつかって、自分たちのお城=言葉を組み立てている。文章しかり、プレゼンやスピーチしかり。もっと言えば、自分の事業(ビジネス)もそうだ。もっているリソース=ブロックである。
言葉に関していえば、誰でも使える共通言語=ブロックであるところに、ものすごい可能性が秘められている一方で、無限とも思えるほどのたくさんの言葉の選択肢に途方にくれたりもする。そこに、AIが救世主のように登場したわけだが、AIが入ってきたことで、かえって自分らしい表現が難しくなってしまう人もいるようだ。
AIは、無限の言葉の選択肢(レゴ)から、ものの2秒で瞬時に素晴らしいエルサ城を組み立ててくれる。
「なんて素敵なお城なんでしょう!」完成度が高ければ高いほど、自由度が下がる。これはどこか、豪華版レゴに似ている気がする。
もちろん「これよ、これ!私が言いたかったのは、そうよ、これなのよ!」と心から感動したなら、何の問題もないのだが、出来上がったエルサ城がしっくりこなかったり、それほど心ときめいていない時が問題だ。
「じゃあ一体どういうお城(文章)がお望みなのですか?」
そう聞かれた途端、モヤ〜っと霧がかかってしまう人にとっては、そこから先は完全に「未知の世界へ(INTO THE UNKNOWN)」である。
(※注:INTO THE UNKNOWNは『アナ雪2』の主題歌です)
完成したエルサ城のどこに文句をつけたらいいのかがわからない。
これは、悩んでいたときのエルサ自分が何者なのか、自分の能力をどう活かせばいいのかがわからず迷走していたのと少し似ている。
AIを使えばたしかにエルサの魔法のように文章を繰り出すことはできるけれど、結局のところ、その魔法が本当に活かせるかどうかは、「使い手」にかかっているのである。
なんだか違和感がある、でもどうしたらいいのかわからないというときは、いっそ「さっきのは忘れて。」そう言って、一から組み立て直す方がいいものが生まれる可能性が高い。そこは、レゴもAIも人間も文章も、すべてに共通しているんじゃないだろうか。
解体して、素材を見つめて、一から仕立て直す。
自分ではあまり気づいていなかったのだが、どうも私は、人よりこれが得意らしい。というより、そういう星のもとに生まれているので、それが役目ですよ、と、ある人に教えていただいた。しかも自分のことより、人のことの方が上手くできるという。心当たりがありすぎて面白かった。
どんな素敵な完成品ができていても、まっさらな目で、素材レベルまで解体して見つめていくことで、思いがけない「掘り出しもの」を発見できたり、別の未来図が浮かび上がってくる、その瞬間が一番好きだ。
もちろん、その素材をどう活かすかの仕立て方も大事だが、素材そのものの存在に気づいていなかった人にとっては、その発見こそが、新しい可能性の扉になるんじゃないだろうか。
INTO THE UNKNOWN。
未知の世界は、素材の中に眠っている。
【編集後記】
そういえば、娘と夢中でレゴをやっていたら、二人揃って下あごを突き出した変な顔をしていて、旦那さんにパシャリと撮られたことがある。
二人とも真顔すぎてちっとも楽しそうに見えない。そう言われたのだが、ゾーンに入っているときに、ヘラヘラ笑っていたらそれはそれでおかしいだろう。とにかく昔懐かしのレゴ®︎は年齢関係なく夢中になってしまうのである。
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