生まれてきた娘は、生まれた瞬間から私たちに衝撃を与えた。ワカメのような黒髪がおでこにたっぷりとへばりついている。
(赤ちゃんって、みんな薄毛じゃないのか・・・)
我が子との感動の対面、その心の声の第一声が「黒っ・・・!」だったというのは、母としていかがなものかとちょっとだけ思ったが、もうあの瞬間には戻れない。
そんなワカメ頭の娘だったけれど、私たちの元に生まれてきてくれた、ただそれだけで私も、私の母も泣いていた。生まれることも、今、生きているのも、ちっとも当たり前じゃない。この瞬間、誰かと一緒にいるのは、奇跡の連続だ。それまで、どこか他人ごとのように通り過ぎていた歌の歌詞のようなセリフが、娘の温もりとともに、自分の内側から迸ってくる。
娘の吐息を感じるだけで幸せ。仕事一筋で生きて来た私は、まさか自分がそんな時間を持てるなんて、想像したことがなかった。ただただ、母を生きる喜びに浸っていたい。そんな育休を、私はありがたく満喫していた。
せかいのぜんぶが
おもしろくって
たのしくって
うれしくって
たまらないんだもん
まるごと全部が「好奇心」の塊のような娘は、やがて見る人が100%吹き出すほどの「超速ハイハイ」を搭載し、気になるものがあれば脇目もふらず全力で突進していく日々を過ごしていた。細胞の全部で生きることに夢中。彼女の前には一体どんな世界が広がっているのだろう?目の前の娘は、生きる喜びと好奇心の風がビュンビュン吹いているというのに、私の心はどこか虚で「すきま風」が吹きこんでいた。
何か、とても大切なことを見落としているような気がする。でも、それが何なのかがわからない。このまま、ただ育休が終わるその日を待っていていいのだろうか。